忍者ブログ
気紛れに書かれる涼宮ハルヒの憂鬱への雑感などなど
[222] [221] [220] [219] [218] [217] [216] [215] [214] [213] [212]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 絵茶中に書いたもの

 

 ふわふわとした毛皮に包まれた小さな三角の物体が僕の眼前で揺れている。
 一辺10センチも無い小さなそれは、簡潔に言えば猫の耳の形をしていた。しかしそれは猫のそれよりは大きくそしてその持ち主は猫ではない。
「何だよ」
 僕の視線が気に障ったのか耳の持ち主が耳を伏せながら半歩ほど後ろへ下がった。……か、かわいい。
 本人にその気は全く無いのだろうが今の仕草は、ちょっと、可愛すぎる。
 元々彼の容姿は特別可愛いとか女性らしいと形容されるようなものでは無いが不機嫌そうな表情を取っ払ってみればそこそこ見られる顔はしているし何よりそのギャップが良いし今は猫耳が良いアクセントになっている。
 猫耳付きなら女子の方が良いと主張する人も居るだろうが僕としては断然この状態を支持したい。彼にとっては災難なだけかも知れないがこれは僕にとっては幸福な出来事だ。いや、眼福と言うべきかな。
「触るな」
「あ、ああ、すみません」
 どうやら勝手に手が伸びてしまったらしい。いけないいけない、確かに今の彼は可愛いしそのふさふさした耳に触ってみたいと思うけれどもこれ以上彼の機嫌を損ね無い方が良い。本気で機嫌を悪くした彼は僕の事など無視して不貞寝してしまうことだろう。この姿で不貞寝する姿というのも可愛らしいと思うのだが出来れば起きている彼を見てみたい。寝姿も良いけれども、起きているときの方が変化が有るし、何より今は可愛らしいオプション付きだ。
「全く、あのバカ……、何が猫耳キャラが欲しい、だ」
 今更説明する気も無いと思うが今回彼が猫耳付きになってしまった理由は涼宮さんに有る。猫耳キャラが欲しいと思って実際に耳が生えるなんて実に短絡的だ。彼女自身がそれを見られないということも含めて考えると結構皮肉な事態なのかも知れない。
「まあ、良いじゃないですか、今日の夕方には戻るという話ですし」
「……まあな」
 長門さんの見立てでは一日足らずで戻るということだから特に心配することも無いだろう。とはいえ彼のこの姿を他の誰かに見られるわけには行かないので彼は今日一日僕の家に居ることになっている。
「悪いな、古泉」
「えっ……、良いですよ、別に」
 唐突な彼の発言に僕は思わず耳を疑った。彼ってこんなことを言う人だったっけ? 別に彼は何も悪くない。不幸が降りかかったのは彼の方だ。僕としては一日彼を独占できるというだけでも結構な幸福を感じていたりするのだ。それは、彼には言えないことだけれども。
「んー、そうか?」
「ええ、僕は気にしていませんから」
 ええ、本当に、全く。
「……お前がそう言うと物凄くうそ臭いな」
 うわ、ひどいこと言われた!
 確かに僕の普段の行動を顧みればこれは決して自然とは言い難い返事だったかも知れないけれども、うそ臭い、という発言はちょっとひどいんじゃないかな。
「ううん、そうですねえ……。ああ、そうだ、別に迷惑じゃないのですが、今日一日分の代償として報酬を頂いてもよろしいですか?」
「は、今日はまだ終わってないぞ? 第一報酬ってなんだ、俺が万年貧乏なのはお前だって知っているだろう」
「だから、前払いですよ前払い、その方があなたもすっきりするでしょう? ああ、それと金銭ではありませんしそんな大それたものでも有りませんよ」
「…………一体なんだ?」
 たっぷりと間を空けた後、彼が問いかけてくる。
 金銭以外、と言っても別に身の危険を感じているわけではないと思う。今のところそういう素振りは全く見せてないのだし。それに、僕が欲しいのはそんな大それたものじゃない。そういうものを欲しいと言い出すのは……、まあ、その辺については保留で良いか。
「耳、触らせて貰って良いですか?」
「……は?」
「だから、耳に触りたいんです」
「マジか?」
「えらくマジです」
 だってほら可愛いじゃないですかしかもそれがあなたに生えているなんて、などという言葉は封じ込めつつも、それでも僕の目は随分と輝いていたんじゃないかな、と思う。そのせいなのか彼がえらく不思議そうな顔をしている。無理も無いか。僕が逆の立場でもきっと似たような反応をしていることだろう。
「まあ……、良い、けどな、そのくらい」
「本当ですかっ」
「ああ、っておい、いきなり触るな」
「わー、ふわふわだあ。あ、ちゃんと繋がっているんですね。継ぎ目が見えないや」
「うあ、ちょ、やめ……」
「あ、ちゃんと神経も通っているんですね」
 くっついているとは思っていたし意思に応じて動くみたいだというのも分かっていたけれども、実際に触れてみるとまた別の感慨が有る。良いなあ、これ。
「こら、あんまり弄り倒すな」
「良いじゃないですか、減るものじゃないんですし、今だけなんですし」
「くそ……」
「あ、尻尾も動いている!」
「うわバカ、そっちは引っ張るなっ」
 尻尾に触ろうとしたら、彼がばんっと尻尾ではたいてきた。
 痛いです……。
「わ、悪い……」
「……い、いえ、僕も調子に乗りすぎていましたし……、すみません」
「あー、そんな顔するな。そうだな、まあ、触っても良いが、あんまり弄り倒さないでくれるか? 変な感じがするんだ」
「あ……、はい」
 彼が差し出してくれた尻尾に触ってみる。耳も良いけどこっちも良いなあ。
 でも、何だか彼がひどく優しすぎるような……、ううん、まあ、あんまり気にしないことにしよう。
 今はこの、ふかふかした幸せな感触と共に。

PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
フリーエリア
最新コメント
[01/19 七原悠衣]
[01/19 裏星]
[01/06 かい]
[01/06 七原悠衣]
[01/06 かい]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
悠衣
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索