これも古みくSS
あとでまとめて加筆してサイトにアップしなおします。
わたしの目の前で、古泉くんがパズルを組み立てています。
長い指先がピースを手に、机の上をうろうろと。
わたしはただ、それを眺めています。
「……どうしましたか?」
「あ、何でもないです」
古泉くんが不思議そうな顔をしたので、わたしは首を振りました。
何でもない、なんてことは無いのと思うんですけど、でも、わたしは伝える言葉を持っていませんから。
だから、こうして眺めているんです。
「あの、邪魔でしたか?」
「別に平気ですよ」
古泉くんが、大丈夫ですよ、とでも言いたげな表情になりました。
こういう表情が見られると、わたしはほっとするんです。
古泉くんは何時も良く笑っていますけど、その笑顔にも、ちゃんとバリエーションが有るんですよ。……今は、嬉しいときなのかな。
「じゃあ、暫くこうしています」
わたしはそう言って、もう一度視線を古泉くんの手元に注ぎます。
ううん、手元と顔の辺りを行ったり来たり、と言った方が正しいかも知れません。
何だか不思議……、何か特別なことが有るわけじゃないのに、わたし、今とっても幸せな気分なんです。
ああ、違いますね。
特別なことが何も無いからこそ、わたしは、幸せなのかもしれませんね。
「あ、お茶無くなっちゃいましたね。……お代わり、入れてきますね」
「お願いします」
そう言った古泉くんの笑顔を見て、思わずわたしも頬が緩みそうになります。
緩みそう、じゃなくて、本当に緩んでいるのかもしれませんけど……、それでも、良いですよね。そのくらい、わたしにも許されますよね。
わたしは椅子を立ち上がり、お茶を入れにいきました。
何時ものようにお湯を沸かして、茶葉を準備して……、一番美味しい温度と時間を見計らって、美味しいお茶を入れてあげるんです。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
わたしの入れたお茶を、古泉くんが受け取ってくれます。
「うん、美味しいですね」
何時もながらの爽やか笑顔が今日は二割り増しに見えるのは、きっと、わたしの気のせいじゃないですよね。……そうですよね?
「良かった……」
「茶葉、変えましたか?」
「あ、はい……、分かるんですね」
「そんなに詳しくは無いんですけどね」
古泉くんの笑顔が、少しだけ苦いものの混じる表情になります。
どうしてでしょう……。あ、わたしに申し訳ないとか思っているんですか? ううん、そんなこと気にしなくて良いんですよ。だってこれは、わたしが好きでやっていることなんですから。うん……、分かってもらえた方が嬉しいかな、とは思いますけど。
でも、そういうのって、押し付けることじゃないですよね。
「……朝比奈さん?」
「あ、すみません、わたし、ぽーっとしちゃって……」
「大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です……。大丈夫です、から」
「……無理はしないでくださいね」
「はい……」
別に、無理なんてして無いんですけど。
確かに、ほんの少しだけ、その、ちょっと、考え事をしていたりはしましたけど……、でも、別にそれは、無理なことじゃないんです。
ただちょっと、ほんのちょっとだけ……、ちょっとだけ、その……、嬉しかっただけなんです。……きっと。
「パズル、楽しいですか?」
何時の間にかパズルに戻っていた古泉くんに、わたしはふと気になって訊ねました。
「ええ、楽しいですよ。……一つ一つのピースがどこに嵌るものなのか考えながら手を動かしていると、余計なことを考えずに済みますしね」
「余計なこと、って……」
「そうですねえ……。例えば、かわいい女の子と二人きりというこの状況を、どう活用しようか、何て辺りでしょうか」
「こ、古泉くん……」
な、な、な……、何を言っているんですかあ!
そ、そんな、そんなさらりと……、さらりと、そんなことを言わないでください。
わたし、わたし……、どんな顔すれば良いか、分からないじゃないですか。
「……冗談ですよ」
「冗談、って……」
「……そういうことにしておいてください」
「……」
そういうことって……、そんなの、そんなの……、ずるい、ですよ。
そんな言われかたしたら……、わたし、わたし……、期待しそうに、なっちゃうじゃないですか。
駄目なのに……、そんなの、駄目なのに。
「パズル……」
「どうしました?」
「わたしも、やってみたいなあと思ったんです」
うう、駄目なんですよ。
駄目なんです……、それは、分かっているんです。
でも、でも、
「おやおや、それはまたどうしてですか?」
「……パズルをしていれば、隣に居るカッコいい男の子をどうやって口説き落とせるか、考えなくて済むからです!」
言われっぱなしは悔しいので、わたしは思いっきり大声で、古泉くんに言い返すことにしました。
「そ、それは……
「……今度、一緒に買いに行ってもらえませんか? 初心者のわたしでも出来そうなもの、選んでくれると嬉しいんですけど……」
「……了解しました」
古泉くんは、ちょっと困った顔になったものの、すぐに笑顔になって、わたしの申し出を受け入れてくれました。
ありがとう、古泉くん。
わたしは……、ちゃんとしたことは何も言えないですけど、でも、そんなあなたが居てくれて、とっても幸せなんですよ。
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